西村 理沙

 

私たちはなぜ考えるのか、心とは何か、脳は何をしているのか。誰しもが疑問に感じたことがあると思います。紀元前からこの疑問は存在し、神経学の起源となっています。

 

いわゆる心として機能するのは、大脳皮質の前頭葉だといわれています。哺乳類の中でも霊長類、とくにヒトで顕著に発達していること、また、事故で前頭葉を損傷した人の症例からそのように考えられています。

 

脳は神経細胞によって構成されており、入力された情報の統合を担っている器官です。神経細胞はヒトの脳全体で千数百億個あり、それらは緻密な層構造に基づくネットワークを形成しています。神経をあつかう手法はさまざまで、細胞の機能や構造を調べる分子生物学、DNA を改変して細胞の性質を人工的に変える遺伝子操作、神経の活動を可視化する神経生理学、細胞やその一部を染色して細胞の局在や回路構造を観察する解剖学、神経活動を推測するコンピュータシミュレーションなどがあります。

 

私が扱っているショウジョウバエは、遺伝子改変が容易にできるモデル生物として研究で重宝されています。遺伝子を書き変えることでたとえば痛みに反応する行動をしなくなったとき、その遺伝子の書き変えによって活動できなくなった神経が、痛みに反応する行動に必要であることが分かります。モデル生物を用いた実験のように「役割を探る」研究と、細胞や回路の「仕組みを探る」研究の二つの側面から、すこしずつ神経とは何か、脳とは何か、の謎に迫っているのが神経学です。